会長挨拶
傾斜機能材料研究会は、日本発の材料概念である傾斜機能材料(Functionally Graded Materials: FGMs)の普及・発展を目的として1988年に設立されました。現在は一般財団法人航空宇宙技術振興財団(JAST)内に事務局を置き、FGMsに関連する国内・国際シンポジウムの開催、Journal of FGMs等の出版、技術移転指導など、様々な活動を行っております。
FGMsは1980年代半ばのスペースプレーン(宇宙往還機)構想に対応するために考案された新耐熱材料です。金属からセラミックスへと組成を連続的に変化させることにより熱膨張係数を連続的に変化させた一体の材料で、高温環境下で発生する熱応力の緩和を目的としました。その概念は、傾斜機能材料研究会の設立とともに「空間的に一つの機能から他の機能へと連続的または段階的に変化する一体の材料」へ拡張され、今では、耐熱材料から構造材料、生体材料、半導体材料、樹脂材料まで広範囲に至っております。
本研究会では国内シンポジウムを毎年開催してきており、第1回(1987年:東京)以降、2022年には第31回(長崎県壱岐市)を数えます。国際シンポジウムも2年毎に世界各国を開催地としており、第1回(1990年:仙台市)を皮切りに、2022年には第16回を米国ハートフォードで開催する予定です。2018年には本研究会創設30周年を記念して第15回国際シンポジウムを日本(北九州市)で開催し、世界11ヶ国から約160名の参加者と共に30周年の節目で祝杯を上げました。
また創設30周年記念事業の一環として、FGMsハンドブック(出版社NTS)の出版準備を現在進めております。このハンドブックは基礎編、創製編、実用編の3部構成で、キーワードによる検索利用を前提とした電子出版も予定しております。各種材料ハンドブックを統合した全材料ハンドブックに組み込まれることも計画されており、FGMsの普及・展開を加速するものと期待しております。
21世紀の世界経済は、資源の採掘~廃棄を前提とした大量生産・大量消費から、資源循環を前提としたサーキュラーエコノミーへと舵を切っています。FGMsは材料内部の“適所”に機能を最適配置させた材料です。もし“適所”に加えて“適時”に機能を最適配置できれば、マテリアルリサイクルされても元の機能が復元できる、あるいは高機能が発現できるようになります。竹や骨などに見られる傾斜構造は生物進化の賜物です。「空間的に“時間的に”一つの機能から他の機能へと連続的または段階的に変化する一体の材料」として、FGMsはこれからも進化を続けることが期待されます。
皆さま、FGMsの更なる普及・発展に向けて、ご支援・ご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
2022年4月1日
傾斜機能材料研究会 会長 篠原 嘉一